Medium Buildは、アメリカ・ジョージア州マリエッタ(アトランタ北西の郊外都市)で育ったニック・カーペンターによるソロ・プロジェクトだ。2015年に活動を開始し、現在はアラスカ州アンカレッジとテネシー州ナッシュビルの二拠点で制作を続けている。
教会音楽を原体験に、80年代ニューウェーブ、90年代ヒップホップ、クラシック・カントリー、エモといった雑多なルーツを飲み込みながら、自らの音楽を「都会の子供たちのためのカントリー」「インディー系クィア(性的少数者)の子供たちのためのソウル・ソング」と呼ぶ。
2025年にはアメリカーナ・オナーズ&アワード(アメリカーナ音楽の年間表彰)で最優秀新人賞にノミネートされ、エルトン・ジョンやボーイジーニアスといった名前からも支持を集めるなど、いまもっとも勢いのあるライジング・アクトのひとりだ。
「takeaways」はslowplay / Island Recordsからリリースされた、従来のアルバムとは異なるプロジェクトである。2024年から2025年にかけて段階的に楽曲が追加されていく「生きた文書」という形式をとり、当初の3曲から10曲以上へと拡張された。
過去の自主制作盤(「softboy」「roughboy」「Wild」など)に収録されていた楽曲を再構築し、新曲と並べて提示する。サウンドは「加工しすぎていない」ロー(生)で親密なインディー・フォーク。デモや即日録音のような、磨きすぎない誠実さがそのまま残っている。
ニック本人は「観客との境界線が非常に薄い場所」と表現しており、その言葉どおり、聴き手との距離感が異様に近い。
まず取り上げたいのが「R3verse」。
2015年のEP「Roger」に収録されていた「Reverse」を再録したもので、物語が巻き戻されるように出会いの瞬間へと遡っていく構成を持つ。原曲に比べてサウンドには重みが加わり、年月のあいだに積もった生活と喪失の気配が、歌声の吐息や間合いに滲んでいる。
歌詞は「終わることを予感しながら踏み出す初対面の夜」を描き、「gracefully uncomfortable(優雅な居心地の悪さ)」という矛盾した感覚のなかで、救いを求める衝動と現実の虚しさが交差する。過去の楽曲を現在の真実として語り直すというプロジェクトの精神を、一曲で体現している。
もう1曲は「Downtown Theater」。ニックが長年温めてきた楽曲で、ライブでも親しまれてきた一曲だ。声とピアノ、ギターを主体にした剥き出しのフォーク・スタイルで、装飾はほとんどない。
温かみがあるけれども、どこか物悲しいメロディーが感傷的な気分を誘う。
というのも歌詞にはジェントリフィケーション(都市の高級化にともなう再開発)によって映画館やダイナー、さらには父親の家までが取り壊されていくといった、切ない光景を描かれているのだ。
物理的な喪失から、人生の無常観──自分が去った後、誰かが覚えていてくれるだろうかという問いへと静かに移行していく。アルバムのなかではセルフ・スージング(自己鎮静)のような役割を担い、深い内省の色を添えている。
過去を壊して建て直すのではなく、そっと並べ直す──「takeaways」はそんな手ざわりの作品だ。

